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君は”物”のために死ねるか?

 

ブログネタが「時計」と「自転車」に偏り過ぎてるせいで、ネタの消費が凄まじいです。勉強すれば語れることも増えるのですが、やはり自分で手にして使ってみた感想が記事の中心となります。

というわけで、今日は新しい試みを。

 

へうげもの レビュー

 

書評です。といっても漫画多めになるかもしれません。第一回は私の愛読書「へうげもの」を紹介します。

 

 

皆さんは「古田織部」という人物をご存じでしょうか。この織部という人物は誰もが知る茶人「千利休」の高弟の一人でして、千利休の後継者といわれた人物です。

千利休の死後秀吉の筆頭茶頭の座を引き継ぎ、天下に名声を轟かせますが、大阪夏の陣の後、豊臣方と近すぎたために内通の嫌疑をかけられ、切腹。70歳の生涯を終えます。信長、秀吉と三傑のうち二人に仕え、二代将軍秀忠の茶道指南も任された傑物です。

 

へうげもの レビュー

成り上がりを夢見るいっぱしの"侍"ではありますが...

へうげもの レビュー

ゲスい部分も多いです。師匠と同じく「清濁併せ呑む」ということでしょうか...

 

へうげもの」はこの古田織部の目を通して展開されます。といっても前半の織部はこの漫画の主役というよりこの時代の名物の数々を紹介する狂言回しの役割です。

実は戦国時代は血みどろの戦いと並行して、名物と呼ばれる茶の湯で用いられる器々の奪い合いが行われていた時代。中にはちっぽけな瓶一つで城、果ては一国にも相当する価値とされるものもあります。

 

こうした道具や茶の湯に熱心な者は「数寄者」と呼ばれ、名物を数多く所有することが大名の「格」を表す指標の一つとされました。織部は物語当初は主君・信長に呆れられるほどの数寄者ながらしがない一兵卒でして、成り上がりを画策する中で数々の名器と遭遇することになります。

参考までに一巻に出てくる3つの茶器を紹介します。織部の驚きようが大げさに見えますが、いつ死ぬか分からないこの時代。ましてや娯楽の少ない世の中では、限られた人しか手にできない名物には想像もつかない価値があったのでしょう。そんな風に考えるとより物語に没入していけます。

 

へうげもの レビュー

茶釜「平蜘蛛」

へうげもの レビュー

染付茶碗「荒木」

へうげもの レビュー

唐物・熊川形青色茶碗 銘不明

 

第一話が無料で公開されていますのでぜひご覧ください。きっと失望はしないと思います。

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数々の名物群を置いて唯一、この物語の裏主人公ともいうべき人物がいます。織部の師、千利休です。この漫画において、千利休は茶聖の名に相応しい威厳と落ち着きを備えつつ欲の権化たる人物として描かれており、織部は自分の欲を満たすために手段を選ばない師を見ながら自分だけの価値観を作り上げていきます。

利休は自らが見出した"わび"の価値を世に広めるためなら自分の命も顧みない、私欲とはいっても一種の使命感の下に行動しています。"わび"のため一命を賭す利休に対して自然と好意を感じるのは、現代において利休の野望が成就した証でしょうか。

 

へうげもの レビュー

自らの"業"の達成に命を賭ける。

 

利休のインパクトがあまりに強いので霞みがちですが、もちろんこの漫画の主人公は織部です。彼独特の感性は物語前半からいかんなく発揮されており、読者にいつでも笑いを与えてくれます。物語の後半、筆頭茶頭まで成り上がり世の名物をあらかた見尽くした織部は、師に倣い自分の価値観を示すものを自ら作り上げることに執念を注ぎますが...ぶっちゃけ執念とかいう固い言葉は似合わない御仁であります

 

ただの名物紹介漫画ではなく歴史漫画としても傑作です。登場期間が短い人物であってもその人物の人となりというか、キャラクターの個性が強く印象に残ります。中でも三傑(主に秀吉・家康)は物語の中心に居続けるのでとりわけ丁寧に描写されます。

今年の大河は光秀ですが、彼もまた物語の根幹を成す重要人物です。死に際の見事さたるや。死後も大きな影響を持ち続けます。意志は形を変えどこの漫画で最後に勝ったのは光秀だといえるかもしれません。それにしてもこの作者は死に様を魅せるのが本当にうまい。

あっぱれです。

 

へうげもの レビュー

作中でも屈指の名場面です。

 

個人的に一番印象が変わったのは秀吉。それまでは、非力ながらずるがしこい冷酷な策士という印象でしたが、天下を取った男がそれだけな訳は無かった。血の通った人間臭く、しぶとく、力強い秀吉を見ることができます。織部とほぼ同時期を生きた男なので最も長く物語の中心にいる以上描写が多いのは当たり前ですが、秀吉への見方が180度変わりました。

 

へうげもの レビュー

信長の死亡シーンは本当に切なくて...

 

信長・家康もしっかり描写されています。特に信長の最後は・・・涙したとかいうのは簡単ですが、なにかこう、胸をえぐるような切なさというか。秀吉が背負うことになったものの大きさは後々まで彼を苦しめます。最序盤での退場ながら、三傑の中でも信長のは群を抜いていました。

 

へうげもの レビュー

おそらく日本史上最もスケールのでかい男。

 

あとは小ネタですね。歴史書に残っている逸話をところどころでネタとしてぶっこんでくるので話によっては常時爆笑ものです。作者の描き方が天才的。

まだまだ書き足りないですがこのあたりで。タイトルは漫画一話のものをそのままいただきました。正直手を加えるところがないです。元がそもそももじりですが。孫引き?当ブログにふざけた記事タイトルが多いのは間違いなくこの漫画の影響です。しかしタイトル一つとってもセンスの塊で、僕では足元にも及びません。嫉妬してしまいます。

この漫画には本当に多くのことを教えてもらいました。青年誌なのでお遊び程度に下品な描写エロ描写ありますがまあ誤差の範囲です自分の人生において五指に入る漫画だと思います。べた褒めでしたがそれだけ好きです。山田芳裕という怪物漫画家の書く物語が見れるということだけでも僕には生きる意味がある。誰かとこの魅力を語らいたい!是非だれか!

 

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

<出典>

山田芳裕へうげもの」一~五服 頁未記載 講談社 文庫 2011